こんにちは、anfieldroadです。
遠巻きに眺めていたClubhouseですが、今夜ちょっと試しにお話してみようと思っています。英語教育ネタではありませんが、ご興味があればこちらもどうぞ。→「現代の教師に必要な『知的生産の技術』について語る」
「概要」と「要点」の違いは?
新学習指導要領で示されている「目標」に登場するキーワードを分析するシリーズ、今回は「概要」と「要点」です。これらは、「聞くこと」「読むこと」に登場します。
ちなみに、同じく「聞くこと」と「読むこと」に登場する「必要な情報」については、すでに[011]で取り上げ詳しく説明しました。「読むこと」でいえば、「学校での連絡事項の中から自分が所属する委員会の活動場所を確認することや,取扱い説明書から必要としている説明を読み取ることなど」といった例が挙げられていましたね。
では、目標イとウに登場する「概要」と「要点」とは何を指しているのでしょうか? まずは、「概要」にフォーカスします。(太字は筆者です)
「話の概要を捉える」とは, 一つの話題に沿って話されるものなど,内容に一貫性のある英語を最初から最後まで聞き,一語一語や一文一文の意味など特定の部分にのみとらわれたりすることなく,全体としてどのような話のあらましになっているのかを捉えることである。例えば「お気に入りの日本食」についてALTが授業で話すのを聞き,話全体の大まかな内容を捉えることができるようにすることなどが考えられる。(「聞くこと」イ)
「概要を捉える」とは,例えば物語などのまとまりのある文章を最初から最後まで読み,一語一語や一文一文の意味など特定の部分にのみとらわれたりすることなく,登場人物の行動や心情の変化,全体のあらすじなど,書き手が述べていることの大まかな内容を捉えることである。(「読むこと」イ)
「必要な情報」のときと同じで、「ざっくり聞け(読め)」というメッセージが伝わってきます。細かい情報はいいから、これが物語なのかメールなのかクレームの電話なのかお礼の電話なのかが理解できればよい、ということになります。
特に「読むこと」については、「心情の変化」「あらすじ」といった語も出てくるので、純粋な聞き取りの能力だけでなく、要約的な表現スキルが求められているように思います。
一方で「要点」についてはこう書かれています。
ここでは,イのように話全体のあらましを把握するのではなく,「要点」,すなわち話し手が伝えようとする最も重要なことは何であるかを判断して捉えることが求められている。(中略)例えば「地球温暖化の防止」をテーマとした講演など,一つの話題に沿って話される首尾一貫した内容を最初から最後まで聞き,話し手が最も伝えたいことは何であるかを判断して捉えることができるようにすることが考えられる。 (「聞くこと」ウ)
「要点を捉える」とは,例えば説明文などのまとまりのある文章を最初から最後まで読み,含まれている複数の情報の中から,書き手が最も伝えたいことは何であるかを判断して捉えることである。一語一語や一文一文の意味など特定の部分にのみとらわれたりすることなく,文章全体を読み通す点はイと共通するが, ここでは,文章全体の大まかな内容を把握するのではなく,文章から複数の情報を取り出し,どの情報がその説明の中で最も重要であるかを判断する点が異なることに留意する必要がある。(「読むこと」ウ)
なるほど、こっちは聞くにしても読むにしても説明文のような素材を想定していて、話題が何で、表現者の一番言いたいことは何か、というポイントを抽出するスキルを求めています。これも国語の読解テストのようなスキルですね。
「概要」は全体的なこと、「要点」は重要な一点、という棲み分けですね。しかもイは「日常的な話題」が、ウは「社会的な話題」が紐付けられているので、自然とウがレベルの高い目標になっている感じがします。
「正確に読む」ことは求められていない
ところで、「概要」と「要点」という語は、現行の学習指導要領でも「言語活動の項に登場していてますので、別に目新しい言葉ではありません。ただ今回は「思考・判断・表現」というキーワードと組み合わさって、結構全面に出てきている気もします。
現行だと「聞くこと」にしても「読むこと」にしても、「正確さ」と「適切さ」という枠組みがあったので、この「ざっくり読む」スキルは「適切さ」の1つとしてこれまでも指導・評価されてきました。
そういう観点で、新旧対照表を眺めていて、1つ気づいたことがあります。以下は、緑色が「正確さ」で、赤が「適切さ」に該当する記述です。
学習指導要領 対照比較表(文部科学省)
あれ? 「読むこと」から「正確」「正しく」の文言が消えていませんか!?
いくら「ざっくり」推しだとしても、今回の改訂で文部科学省は「正確に読む」を目標からも内容からも消してしまったのですか!? これはびっくりです。
そもそも「書くこと」については、(ア)の活動も正確に読めることを前提としているようなレベルの難しい活動だと思いますし、(ウ)や(エ)では、他技能との連携のようなレベルの高い活動が設定されています。
いわゆる訳読のような「一語一語や一文一文の意味」を確認するような授業が望ましくない、というのはわかりますが、じゃあ一文をしっかり理解する能力はどこで身につければいいんでしょうか? 「ざっくり聞く(読む)」をただ続けていればいつか身につく能力なのでしょうか?
多聴や多読からルールが内在化していくのは理想的な流れかもしれませんが、公立中学校の週4回の授業でどれだけのことがしてあげられるのかを考えると、悩ましいです。(授業数や授業外のリソースの多い私立中学校の生徒と差がついてしまうのも心配です) 学習指導要領は、総則で指定している授業時数の中でしっかりとその力が身につくような目標や内容を提示すべきだと思います。
という、批判で終わってしまって申し訳ないです。今後少しでも前に進める打開策も提示していければと思っています。
2月もあと1週間、と思うと本当に早いなと感じます。批判ばかりでなく、4月までに少しでもお役に立つ情報をお伝えできるように頑張ります。